介護職は、職員やご利用者など常に人と接するため、コミュニケーションの難しさに悩むことの多い職業と言えますが、実は自分のちょっとした心がけでスムーズにすることが可能です。
この記事では、介護職に人間関係の悩みが生じやすい理由や、人間関係を変えるための選択肢、円満な人間関係をつくる秘訣などをご紹介します。今まさに人間関係に悩んでいる方は、ぜひ参考にしてみてください。
人間関係の悩みはどんな職業でも少なからずあるものですが、とりわけ介護の仕事は人とのコミュニケーションが重要な役割を持つだけに、ストレスを感じてしまう場面は多いかもしれません。問題が解消されない場合、離職に至るケースも少なくないのが現状です。
医療・介護分野における人材サービスを行うTSグループでは、介護職の離職経験がある人を対象に実態調査(介護職の離職に関する実態調査2020)を実施しています。これによると、離職者の約7割が「介護の仕事は好きだが離職した」と回答しており、離職の理由1位は「職場の人間関係(46.6%)」というデータが出ています。
では、なぜ介護職に人間関係の悩みが多くなってしまうのでしょうか。以下で、考えられる要因を3つに分けてご紹介します。
介護の現場で働くスタッフの年齢は20歳前後から60歳以上と幅広く、経験値も人それぞれです。無資格・未経験からでもチャレンジできることから、異業種から転職してくる人もいます。
年齢や経験、バックボーンが違えば、当然考え方や価値観は異なるもの。上手くいけば素晴らしいチームワークを発揮できますが、意見が合わないときは人間関係にひずみが生じます。時には感覚が違いすぎて、コミュニケーションの取り方が分からないと感じることもあるでしょう。
また、現場には介護士の他に、看護師や理学療法士、ケアマネージャーなど職種の異なるスタッフがいます。それぞれがご利用者のことを考えて行動していても、視点の違いから衝突してしまうこともしばしば。相手の考えを理解する前に、お互いに苦手意識を持ってしまうことがあります。
介護業界が抱える課題の1つに、人材不足による業務過多が挙げられます。仕事が忙しくなると心に余裕がなくなり、少しのことで感情的になってしまったり、思いやりのない態度をとってしまったりすることがあります。
フォローする時間が取れなければ、人間関係は悪化してしまう一方です。職場の雰囲気もギスギスしたものになってしまいます。
規模にもよりますが、介護業界には一般の企業のように人事異動のない事業所もあります。苦手意識を持つスタッフがいる場合、何年も一緒に仕事を共にするのは大きなストレスです。特に夜勤などで2人きりなることがある施設介護従事者は、ストレスを感じるタイミングが多いかもしれません。
また、職場環境が変わらない場合は、職員間で固定のコミュニティが形成されることがあります。チームワークが強化されるメリットがある一方、違うコミュニティと対立したり、孤立する人が出てしまったりとネガティブな結果につながることも。こういった状況に居心地の悪さを感じる方も少なくありません。
上記のような理由で人間関係に悩んだ場合、どのようにすれば現状を変えることができるでしょうか。選択肢は大きく分けて3つあります。
1つ目の選択肢は、異業種への転身です。環境を一新させたい思いから、介護業界を離れ、新しい分野で一からやり直したいと思われる方もいるでしょう。しかし、人間関係に疲れただけで、介護の仕事自体は好きだという方は、冷静に判断する必要があります。
TSグループの実態調査によると、離職経験者の半数以上が「復職している」あるいは「復職の予定がある」と回答しています。その理由は「資格や技能を活かせるから」「達成感ややりがいを感じるから」「自分に合っているから」というものでした。
培ったスキルは財産であり、楽しいと思える仕事と出会えたことは幸せなことです。できれば別の選択肢を検討することをおすすめします。
2つ目の選択肢は、介護士として別の介護施設に転職する方法です。採用に積極的な介護事業所は多いため、経験に応じて即戦力として活躍できる可能性も高いでしょう。給与や待遇において、今より好条件の職場を見つけられるかもしれません。
複数の施設を運営している法人にお勤めで、近隣に通勤可能そうな施設があるのであれば異動を上長に相談してみるのも良いでしょう。
ただし、新しい職場でも人間関係に悩むリスクはあります。人間関係でトラブルがあったとき、一般的には年次の浅いほうが居づらさ感じることが多いです。慣れない職場で相談できる人がいない場合、精神的ストレスは大きなものとなります。
また、前提として新しい環境に慣れるには、それなりにエネルギーを要します。メリット・デメリットを鑑みて慎重に行動しましょう。
3つ目の選択肢は、今の職場の職員との関わり方を変えてみる方法です。やり方はいろいろありますが、ポイントは相手を変えようと思わないことです。
みなさんは、アドラー心理学の「課題の分離」をご存知ですか?「課題の分離」とは、自分でコントロールできる悩み=「自分の課題」と、自分ではコントロールできない悩み=「他人の課題」とに分け、「自分ではコントロールできないことには介入しない」といった考え方のことです。シンプルに考え、対人関係の悩みをスッキリさせるために利用されます。
介護現場での人間関係の悩みには、例えば職員同士であれば「仕事に対する考え方の違い」や「高圧的・非協力的な態度」などがあります。ご利用者に対しては「暴言・暴力」「わがまま」「適切なコミュニケーションがわからない」などが考えられます。
仮に、非協力的な態度を取る同僚に協力をお願いしてもなかなか態度が改善されずイライラしてしまう、というケースを考えてみましょう。この場合、課題は以下のように分離できます。
同僚が協力しないことで不都合が生じる可能性があるのであれば、その旨をきちんと伝えることが自分の課題です。一方、協力をお願いされたのに協力しない、またそのことで生じる不都合は自分ではコントロールできませんから、同僚の課題となります。
つまり、きちんと協力をお願いするという自分の課題を果たし、同僚が協力しないことは諦めて介入しない(管理者に指導を仰ぐ)ということです。このように課題を分離して考えることで、「こうあるべき」を相手に押し付けてイライラすることがなくなります。
職員やご利用者と円満な人間関係を築くためのポイントをご紹介します。いずれも心構えや意識を変えることが大切です。ぜひ取り入れてみてください。
苦手な職員に接するときは、以下の2点を意識しましょう。
多くの場合、人に対する苦手意識は相手の考えを理解できないことから生まれます。しかし、年齢、経験、バックボーン、役割などが異なれば、考え方は違って当然です。意見がぶつかりそうになったときは、一度冷静になり、相手の立場に立って物事を見てみましょう。
もともと同じ目標に向かって働く仲間ですから、相手がその意見に至った経緯などが分かってくると、共感できるポイントが見え、「異なる意見」が「新しい発見」に変わってくるはずです。
また、アットホームな職場で起こりがちなのが、職員同士の精神的な距離の近さが苦手意識の原因となっているケースです。距離感が近すぎると気づかぬうちに「相手も自分と同じ意見を持っているはずだ」と思うようになり、人間関係にズレが生じます。
このような場合は、少し距離を置けば解決できることが多いです。適度な距離感は人間関係を円滑にしてくれます。
苦手なご利用者に接するときは、以下の2点を意識しましょう。
苦手意識のあるご利用者と接するときは、改めてそのご利用者の状況を理解することがポイントです。介護職員に向かって発せられる暴言やわがままは、自分の身体をうまく動かせないことへのストレスが原因かもしれませんし、認知症が進み感情のコントロールが難しくなっていることが原因かもしれません。客観的にご利用者の状況を理解できると、さまざまなことが許容できるようになってくるはずです。
それでも強いストレスを感じるようであれば、早めにリーダーや管理者に相談し、対策を講じましょう。介護は1人で行うものではなく、職員全員で取り組んでいくべきもの。ご利用者との人間関係の悩みを1人で抱える必要はまったくないのです。
介護職を続けていくのなら、人間関係のブラッシュアップは欠かせない業務の一つ。人間関係の悩みが生じる要因、円滑にするコツなどを理解していくことが大切です。
今回ご紹介した人との関わり方・考え方を参考に、まずは人間関係づくりの方法を見直してみてはいかがでしょうか。人間関係が良好で働きやすい職場を、自分で築きあげていきましょう。
介護アンテナ編集部Kaigo Antenna Editorial Department
プロフィール
株式会社ベネッセスタイルケア運営の介護アンテナ。編集部では、ベネッセの25年以上にわたる介護のノウハウをはじめ、日々介護の現場で活躍している介護福祉士や介護支援専門員(ケアマネジャー)、看護師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士などの高齢者支援のスペシャリストたちの実践知や日々のお仕事に役立つ情報をお届けします!
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