公開日:2022/08/24

更新日:2023/01/12

介護施設運営

介護ロボットって何だろう?ロボットの歴史や種類について解説

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全国に330施設以上の有料老人ホームを運営しているベネッセスタイルケアの社内シンクタンク(研究機関)である「ベネッセ シニア・介護研究所」の研究員が、介護に関する調査・研究のトレンドや最新情報など、介護現場で活躍されている方に向けて、役立つ情報を発信する連載コラム。第6回目の本記事では、介護ロボットについて種類、現在の普及状況などをわかりやすく解説します。

介護ロボットって何だろう?ロボットの歴史や種類について解説

「介護ロボット」と聞いて、どんなロボットを思い浮かべますか。無機質な金属製の機械でしょうか。ぬいぐるみのようなかわいらしいロボットでしょうか。

頭に浮かぶ姿がどんなものであれ、きっと介護をしてくれるロボットのことを思われるでしょう。その想像はおおむね当たっています。介護の手助けをしてくれるロボット、それが介護ロボットです。そして、その姿かたちは皆さんが想像したように実に多様です。なかには「これもロボットなの?」、と感じるものもあるかもしれません。

いま、世界中でさまざまな分野にテクノロジーを活用しようという試みがなされています。「人工知能(AI)」や「テクノロジー活用」などの言葉をメディアで見ない日はないほど、その動きは活発化しています。そして、医療や介護の分野でも最新テクノロジーの活用を加速化する取組が進んでいます。もしかしたら、耳目を集めるそれらニュースの片隅で、「介護ロボット」のことを見聞きした人もいるかもしれません。

しかし、どんなロボットが介護ロボットと呼ばれるのか知らない人も多いのではないでしょうか。

今回のコラムでは介護ロボットに注目し、その概略について解説します。ロボットの歴史や介護ロボットが開発されている経緯や普及状況、課題についてみていきます。介護ロボットをテーマの主軸にしながら、よりよいテクノロジー活用について考えていきたいと思います。

ロボットの登場、空想から現実へ

介護ロボットは介護の手助けをするロボットのこと。冒頭でそう説明しました。では、そもそもロボットとは何でしょうか。

ロボット(Robot)という言葉が初めて登場したのは今から100年ほど前の1920年、チェコで発表された戯曲の中でした。人の代わりにさまざまな労働をする人型の人工物としてロボットが描かれました(※1)。もっと昔から、からくり人形(オートマタ)とよばれる機械仕掛けの人形はありましたが、「人の代わりに労働する人工物」というコンセプトはまだ珍しいものでした。

その後1960年代以降、部品を組み立てたりする「産業用ロボット」が開発され、工場で多くのロボットが稼働するようになります(※2)。産業と技術の発達に伴って空想上の存在だったロボットは私たちの前に現れ、実際に人の労働の一部を担うようになりました。そして、産業のさらなる発展に大きく貢献します。

1990年代後半頃になると、今度はサービス業で利用することを目的とした「サービスロボット」と呼ばれるタイプのロボットが開発されます(※2)。産業用ロボットは機械の組み立てなどモノを作業対象とし、基本的に工場の中で稼働するため、日常で見かけることはありません。しかし、サービスロボットは公共空間や家庭など私たちと同じ環境で人にサービスを提供するために稼働します。最近では役所や飲食店で案内や配膳の一部を担うロボットを目にすることも多くなりました。

このようにロボットはモノや人を対象にした作業を人の代わりにある程度自律的に行う機械・装置ということができます。そのコンセプトが登場してからまだ100年程しか経っていませんが、私たちの生活に深く関わるようになりました。

介護を担うロボットの種類

ロボットの登場、空想から現実へ

介護ロボットは人を対象に動作するロボットです。したがって、サービスロボットの一種になります。厚生労働省は介護ロボットをさらに次のように定義しています。「ロボット技術を応用し、利用者の自立支援や介護者の負担の軽減に役立つ介護機器のこと」(※3)。

利用者(要介護者)と介護者を手助けする介護ロボットはその使用目的に応じて「介護支援型」、「自立支援型」、「見守り型/コミュニケーション型」の3つのタイプに分類することができます。それぞれのロボットについて詳しく見てみましょう。なお、今回紹介するロボットや導入事例の詳細については介護ロボット機器に関するさまざまな情報を発信している介護ロボットポータルサイトに掲載されているので、ご興味のある方は是非ご覧ください(※4)。

3タイプの介護ロボット

介護支援型

介護支援型ロボットは介護者の仕事をサポートするロボットです。アシストスーツやパワースーツなど、介護者が身に着けて移乗などのサポートをするロボットなどがこれに該当します。また、ロボット自身が要介護者をベッドや車いすから抱き上げ、移動してくれるタイプのものもあります。

自立支援型

自立支援型ロボットは要介護者の歩行や排泄、入浴などの日常動作をサポートしてくれるロボットです。歩行器のようなものから、排泄のための動作を支援するロボット、自由に移動でき、空間に馴染むデザインのトイレ型のロボットがあります。カプセル内で要介護者にミストシャワーを浴びせることができる入浴支援ロボットもあります。さまざまな大きさ、形状のロボットがありますが、いずれも要介護者の自立生活をサポートできるよう設計されています。

見守り型/コミュニケーション型

見守り型ロボットはセンサーによって要介護者の活動や夜間の睡眠の状態をモニターし、異常があったら介護者に知らせてくれます。離床状況を把握したり、呼吸や心拍を測定できたりするものもあり、ロボットというよりはセンサーといった方が想像しやすいかもしれません。一方、コミュニケーション型のロボットは人とコミュニケーションをとることを目的に作られています。

言葉を使って人と会話するタイプだけでなく、動物のような姿、声を発するロボットもあります。さまざまなシグナルを介して利用者の孤独をやわらげ、社会参画を促すことが期待されています。最近では見守り機能を付加したコミュニケーションロボットも登場しています。ペットロボット、ソーシャルロボットなどさまざまな呼称で呼ばれています。

どんな状況でどんなロボットを利用するかの見極めが重要

このように介護ロボットにはいくつかの種類があります。介護は日常のあらゆる場面で要介護者を身体的・精神的に支援する活動です。介護ロボットも食事や入浴、移動、コミュニケーションなどさまざまなシーンに対応できるよう、それぞれの状況に最適な形にデザインされています。その姿かたちはまさに千差万別。どんなロボットがあるのか、どんな状況でロボットを利用するのか、それを見極めることが介護ロボットを有効に使う上で大切になります。

介護ロボットが必要な理由

ところで、なぜ介護ロボットが開発されているのでしょうか。その背景には2つの社会的な問題があります。1つは高齢者の人口割合増加による社会保障費の増大、もう一つは生産年齢人口の減少です。一つずつ見てみましょう。

理由1.超高齢化する日本社会

日本の高齢化率(総人口に占める65歳以上人口の割合)は現在約29%、世界で最も高い数値であり、超高齢社会となっています。今後も高い水準が続くとみられ、2065年には総人口の38.4%が高齢者になると試算されています(※5)。約2.6人に1人が高齢者。そう聞くとかなりインパクトのある数字です。高齢者の人口が増えると社会保障費が増大していきます。社会保障費を保険料だけで賄うことはできておらず、今後も医療と介護に関する社会保障費は増加していくことが予想されています(※6)。

理由2.生産年齢人口の減少

もうひとつの大きな課題は生産年齢人口が減少していることです。2025年以降、就労できる生産年齢人口が急減するとされています(※7)。介護職の人手不足も深刻化しており、外国人介護職を積極的に受け入れ、労働力を確保する取組が進められています。このあたりの状況については前回のコラムで詳しく解説しているのでぜひご参照ください。

関連記事外国人介護職のスキル獲得・キャリア展望の実態とは?関わる制度も含めて解説!

このように、介護の需要と供給のバランスが崩れてしまっている状況を少しでも緩和し、社会保障を充実させるためには、高齢者の自立や社会参画を促し介護需要を抑えつつ、人手不足を補う必要があります。自立を支援するロボットや、介護する側の負担を軽減し、生産性を向上するロボットの開発が進められている背景には、このように日本の人口動態に深く根差した問題があるのです。

では、介護ロボットは介護現場に導入され、普及しているのでしょうか?

介護ロボットの導入は進んでいるのか?

介護ロボットの導入は、結論から言うとあまり進んでいません。表1はそれぞれの介護ロボットがどれくらい導入されているのか調査した結果を示しています。

表1.介護ロボットの導入率

介護ロボットの普及状況

(介護労働安定センターの令和2年度「事業所における介護労働実態調査(事業所調査)」(※8)を基に作成)

最も導入が進んでいる見守り・コミュニケーション型の介護ロボットですが、その導入率は4%以下。介護ロボットを全く導入していない事業所は約80%になっています。高齢者や介護者の負担を軽減するために開発されているにもかかわらず、肝心の現場で活かされていないのです。いったい何が導入を妨げているのでしょうか?

介護ロボットの普及を阻むさまざまな課題

介護ロボットの普及を阻むさまざまな課題

全国の介護事業者に介護ロボットの導入や利用にどのような課題や問題意識を持っているかを尋ねたアンケート調査があります(※8)。その結果から、導入のハードルとなるいくつかの問題点が浮き彫りになってきました。

表2. 介護ロボットの導入や利用についての課題

表2. 介護ロボットの導入や利用についての課題

(介護労働安定センターの令和2年度「事業所における介護労働実態調査(事業所調査)」(※8)を基に作成)

集計結果を管理者側と現場職員側の課題に分類して詳しく見てみましょう。

管理者側に関わる課題

導入コストの高さや費用対効果への疑問

最も大きな課題は価格です。介護ロボットは業務の効率化をサポートしてくれる有効なツールであるものの、その価格は高額であることが多いのが現状です。レンタルできるものもありますが、それでも数万円かかるものが多く、金額面で介護ロボットの導入に躊躇してしまうケースが多いようです。また、せっかくコストをかけてもそれに見合う効果が得られるのかどうか明瞭でない点も課題として挙げられています。

設置場所・維持管理への不安

たとえば移乗をサポートするタイプのロボットには大型のものも多いため、施設内にロボットを設置するスペースを確保する必要があります。スペースを用意したり、そのために業務の動線を変更したりすることは大きな負担になってしまいます。介護ロボットを安全に使うために必要な準備や手間も介護ロボットの普及を遅らせる大きな理由になっていると言えます。

どのような介護ロボットがあるかわからない

どんな介護ロボットやICT機器・介護ソフトがあるかわからないという声もあがっています。今回のコラムでもご紹介した通り、一言で介護ロボットといってもその種類や機能は多岐にわたっており、どのような介護ロボットがあるかどうか把握するだけでも一苦労かもしれません。

現場職員に関わる課題

介護ロボットを使いこなせるかどうかという不安

ロボットを使うための労力についても不安を抱えていることが集計結果から見えてきます。介護ロボットを使いこなすためにはある程度操作に慣れる必要があります。操作方法を学ぶための時間を確保することや、そもそも操作が難しいのではないかという疑問が課題としてあるようです。

管理者側・現場職員側の双方に関わる課題

介護ロボットを活用することへの違和感

介護ロボットを活用することに違和感を覚えると答えた事業者が25%に上っています。具体的にどのような違和感なのかはこの調査では明らかにされていませんが、介護ロボットの利用に懐疑的な目を向ける人も一定数いることが窺えます。

総務省が行った別のアンケート調査では6割以上の人が介護する側として介護ロボットを利用したい、もしくは利用を検討したいと回答している一方で、3割弱の人は利用に消極的な回答をしています(※9)。介護は人の手で、という考えもあり、介護という営みそのものに対する信条もテクノロジー活用に影響を及ぼしているかもしれません(※10)。

QOL向上をもたらす介護ロボットの開発に向けて3つの提案

QOL向上をもたらす介護ロボットの開発に向けて3つの提案

介護ロボットの導入を阻む要因として、金銭的なコストだけでなく、安全・適切に使うためのさまざまなコストも大きな割合を占めていることがわかりました。また、介護ロボットを利用することに対する違和感も普及を阻んでいる要因になっているようです。これらのハードルを一つずつ取り除くことが今後の介護ロボットの発展とそれによる生産性の向上に重要となるでしょう。そのために必要な3つのアプローチを挙げてみます。

整備が進んでいる補助制度等の有効活用

介護ロボットの普及のために行政でもさまざまな取り組みがスタートしています。たとえば、各都道府県では介護ロボットの導入支援のための助成制度が設けられています。また、実際に介護ロボットに触れながら、導入や活用に関する相談の受付や補助金の紹介を行っている相談窓口も全国に17ヶ所設置されています(※11)。

介護ロボットの導入を検討したいけれど、なかなか最初の一歩を踏み出せない場合は窓口を通して、介護ロボットに触れたり、導入事例や補助金について相談したりするとよいでしょう。

介護現場と開発現場の共創によるロボット開発

介護ロボットのような誰しもがその恩恵を受けるであろう技術については、一部の専門家だけでなくさまざまな視座の声に耳を傾けながら開発を進めることが肝要です。どんなロボットが必要で、それをどう運用するのか、より良い開発や運用のために介護職の観点が必要になります。また要介護者自身の声も開発に大きく役立ちます。

介護の問題の最前線にいる皆さんの声を先ほど紹介した相談窓口を通して伝えることで、現場のニーズに即したロボット開発が進みます。現場のニーズと開発側のシーズのマッチングを促進するための仕組みも作られているので、ぜひ活用してみてください(※12)。

介護ロボットに関するさまざまな研究

介護現場のニーズに応えられるような介護ロボットの技術的研究は今後もますます進められるでしょう。しかし、技術的側面だけでなく、ロボットをどのように介護に活かすのかという実装に関する研究も進める必要があります。ロボットの効果を検証するための生理学的研究や認知科学的研究も不可欠でしょう。また、どこまで機械任せにしてよいのかという倫理的な側面の研究や議論も必要になってくると思われます。実際、ロボットの開発・利用に関する倫理学的研究が近年急増しています。

よりよいテクノロジー活用のために

社会保障費の増大や人手不足など、介護に関する問題は私たちに重くのしかかります。しかし、問題はうまく向き合えば時に大きな恵みをもたらすこともあります。人手が不足しているネガティブな状況をただ解消するだけでなく、人と介護ロボットがうまく役割分担し、相補的になることで、介護者と要介護者双方のクオリティ・オブ・ライフ(QOL)を向上することができるかもしれません。

今回ご紹介した3つのアプローチを介して介護者や要介護者、専門家の知恵を結晶化した先には、単なる労働力の代替ではない、人の幸せのための介護ロボット、テクノロジー活用の在り方が見えてきます。介護に関わる皆さんの気づきを言語化し、発信することはそのための大きな礎になるはずです。

<参考文献>
※1. Karel Chapek. Rossum’s Universal Robots. Doubleday, Page & Co., 1923. カレル・チャペック. 「ロボット―RUR」, 阿部賢一訳, 中公文庫, 2020.
※2. 楠田喜宏「サービスロボット技術発展の系統化調査」, 国立科学博物館技術の系統化調査報告第5集, 2005.
※3. 厚生労働省「介護ロボットとは」(2022年7月5日参照)
※4. 介護ロボットポータルサイト(2022年7月5日参照)
※5. 内閣府「令和3年版高齢社会白書」2021
※6. 三菱UFJリサーチ&コンサルティング「社会保障の現状と課題~全世代型社会保障制度の構築に向けた課題~」2020. 
※7.  厚生労働省 第28回社会保障審議会「平成31年2月1日資料2, 今後の社会保障改革について―2040年を見据えて―」2019.(参照:2022年7月5日)
※8. 公益財団法人介護労働安定センター「令和2年度介護労働実態調査ー事業所における介護労働実態調査結果報告書」 2020. (参照:2022年7月5日)
※9. 総務省情報通信国際戦略局情報通信政策課情報通信経済室「社会課題解決のための新たなICTサービス・技術への人々の意識に関する調査研究―報告書―」2015 (参照:2022年7月5日) 
※10. 厚生労働省「介護ロボットの普及拠点事業報告書」2020. 
※11. 介護ロボットの開発・実証・普及のプラットフォーム(参照:2022年7月6日)
※12. NS Matching 2022(参照:2022年7月6日)

著者プロフィール

岡部 祥太Shota Okabe

プロフィール
ベネッセスタイルケアのシンクタンクであるベネッセ シニア・介護研究所所属

ベネッセ シニア・介護研究所ホームページ

麻布大学大学院 獣医学研究科 動物応用科学専攻 博士後期課程修了。博士(学術)。自治医科大学医学部助教などを経て2021年より現職。専門は動物行動学。他者と親和的な関係性が結ばれるメカニズムとその効果、および動物やソーシャルロボットのELSI(Ethical, Legal and Social Issues)について研究中。最近、ボッチャに初挑戦。

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