公開日:2022/05/24

更新日:2022/05/24

介護施設運営

外国人介護職のスキル獲得・キャリア展望の実態とは?関わる制度も含めて解説!

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全国に330施設以上の有料老人ホームを運営しているベネッセスタイルケアの社内シンクタンク(研究機関)である「ベネッセ シニア・介護研究所」の研究員が、介護に関する調査・研究のトレンドや最新情報など、介護現場で活躍されている方に向けて、役立つ情報を発信する連載コラム。第5回目の本記事では、外国人介護職のスキル獲得・キャリア展望の実態や制度についてわかりやすく解説します。

外国人介護職のスキル獲得・キャリア展望の実態とは?関わる制度も含めて解説!

日本では2021年10月時点で、約173万人の外国人が就労しています。そのうち「社会保険・社会福祉・介護事業」の仕事に従事する人は4万人以上を占め、介護現場を支える一員として、なくてはならない存在になってきています(※1)。今回は、外国人にかかわる制度やこれまでの受け入れ状況などについて概観するとともに、外国人介護職受け入れのありかたについて、考えていきます。

1.外国人介護職受け入れの背景

少子高齢化が進む日本では、2025年以降、就労の中心となる生産年齢人口が急減するとされています(※2)。介護職の人手不足への危機感も高まっており、2040年度には69万人が不足する見込みとなっています(※3)。このような背景から、厚生労働省は「総合的な介護人材確保対策」を掲げ、その柱のひとつとして「外国人材の受入れ環境整備」を挙げています(※4)。

このような積極的な受け入れ政策が奏功し、コロナ下においても、外国人介護職は増加傾向にあります(※5)。では、現在どのような外国人が、日本の介護現場で働いているのでしょうか?

2.外国人介護職に関わる4つの制度

現在、日本では外国人が介護職として働くための下記の4つの制度を設けています(注1)。

  • EPA(経済連携協定)
  • 在留資格「介護」
  • 技能実習
  • 特定技能

在留資格「介護」においては、永続的な就労が認められています。それ以外の制度においては、実務経験を積み、期間内に介護福祉士国家試験に合格すれば、永続的な就労が可能となります。次からそれぞれの制度について詳しくご説明します(※6~※11を元に筆者作成)。

EPA(経済連携協定)(インドネシア、フィリピン・ベトナム)

開始時期
2008年8月~(注2)
制度の主旨
二国間の経済連携の強化
概要
介護福祉士候補者として介護施設で就労し、介護福祉士国家試験合格を目指す(注3)
受け入れ実績
5,528人 ※2021年3月1日時点(国際厚生事業団発表)
就労可能な期間
介護福祉士資格取得後は永続的な就労が可能

在留資格「介護」

開始時期
2017年9月~
制度の主旨
専門的・技術的分野の外国人の受け入れ
概要
留学生として介護福祉士養成施設を卒業し、介護福祉士国家試験に合格すると、介護福祉士として働ける
受け入れ実績
3,064人 ※2021年6月末現在(出入国在留管理庁発表)
就労可能な期間
永続的な就労が可能

技能実習

開始時期
2017年11月~
制度の主旨
本国への技能移転
概要
実習実施者(介護施設等)の下で実習を行う。実習の各段階で、技能評価試験を受験する
受け入れ実績
認定件数 22,858件 ※2021年3月末時点(速報値)(外国人技能実習機構発表)
就労可能な期間
最長5年(介護福祉士国家資格を取得すれば、在留資格を「介護」に変更し、永続的な就労が可能)

特定技能1号

開始時期
2019年4月~
制度の主旨
人手不足対応のための一定の専門性・技能を有する外国人の受け入れ
概要
技能水準・日本語能力水準を試験などで確認のうえ、介護施設等で就労する
受け入れ実績
在留者数 3,947人 ※2021年9月末時点(速報値)(出入国在留管理庁発表)
就労可能な期間
最長5年(介護福祉士国家資格を取得すれば、在留資格を「介護」に変更し、永続的な就労が可能)

制度別:介護の仕事をしている外国人の国籍・地域の内訳

制度別に、介護の仕事をしている外国人の国籍・地域の内訳をまとめたのが下のグラフです。

「EPA」では、受け入れ開始が遅かったベトナムの割合は20%程度ですが、「技能実習」「特定技能」においては、ベトナムが約40%~50%を占め、かなり割合が高いことがわかります。

※8、※10、※11を元に筆者作成

3.外国人介護職の来日した動機

外国人介護職の来日動機

このように現在、決して少なくない人数の外国人介護職が日本の介護現場を支えています。彼・彼女らは、数ある選択肢の中から、なぜ日本で介護職として働く道を選んだのでしょうか?

EPA、在留資格「介護」を取得した外国人介護職員、介護職種で技能実習を行う外国人技能実習生、計1,437人を対象に行った調査において「日本で介護の仕事をしようと思った理由」について尋ねたところ、「介護」と「技能実習」では「日本の介護を学びたいから」、「EPA」では「日本の介護福祉士を取りたいから」が最多となりました(※7)。

また、EPAのインドネシア人介護福祉士候補者を対象に調査を行った研究(※12)や、ベトナム人技能実習生へのインタビュー調査(※13)においては、自身のキャリアアップのために渡日を決めた候補者の存在が明らかとなっています。

これらの調査結果からは、外国人介護職の来日動機として、自身のスキルアップ・キャリアアップのための経験を積みたいという意向が強いことが窺えます。

4.外国人介護職の知識・スキル獲得とキャリア支援の現状

外国人介護職の知識・スキル獲得とキャリア支援の現状

では実際、外国人介護職は介護施設で働く中で、どのような知識やスキルを得て、どのようなキャリアを描いているのでしょうか。

着実に介護の知識・スキルを獲得している外国人介護職

外国人介護職の直属の上司1,490人に対して行った調査では、在留資格によって差はあるものの、特に「生活援助」「身体介護」については、85%以上の上司が「よくできている」「まあできている」と評価していました(※14)。

EPAの受け入れ施設の施設長を対象に、3年間の実務経験を経た外国人介護福祉士候補者の介護技能を、同時期に無資格で入職した日本人職員との比較でどのように評価しているのかを調べた研究では、「介護技術」「利用者とのコミュニケーション」など、9項目中6項目で外国人介護職が日本人職員より高評価を得、「総合評価」でも日本人職員を上回る結果となっています(※15)。

また、外国人介護職本人に対して行った調査では、言語・文化面での困難に直面しながらも、受け入れ施設のサポートを受けたり、自ら積極的に学んだりすることで、介護に対し「仕事が好きで、誇りを持っている」「やりがいがある仕事だ」といったポジティブな認識を持っている人や(※16、※17)、母国にはない知識・技術を実践で理解し身につけていくことに達成感を覚えている人も見受けられます(※18)。

これらの調査結果からは、外国人介護職が着実に介護の知識・スキルを獲得している様子が窺えます。

課題はキャリアの支援体制や制度設計

一方で、キャリア支援については課題も見られます。

外国人介護職は、5年後、10年後の仕事の希望として「介護の技術や能力を高めたい」「介護の日本語を教えたい」「介護施設で現場のリーダーになりたい」などを挙げていますが、「働いている施設の満足度」についての回答では、「将来のキャリアに関する説明・支援」に対する満足度が、他の項目に比べ低い結果となっていました(※14)。

また、なかには「ケアマネジャーになりたい」「日本で看護師になりたい」というキャリアプランを描いている人もいますが、現在の外国人介護職受け入れの枠組みでは、これらはキャリア形成となる資格として制度上位置づけられていない、という指摘もあります(※19)。

今後はいっそう、それぞれの施設でのキャリア支援に加えて、外国人介護職のキャリアに関わる制度設計が必要となってくるでしょう。既に一部の受け入れ施設では、外国人介護職向けのキャリアパスを明示しているところもあるようです。リーダーや介護課長などの管理職に就いている外国人介護職の方も見受けられます(※20)。

キャリア支援の一例として、(株)ベネッセスタイルケアでは、留学生用の採用ホームページにて、介護福祉士国家試験の受験や在留資格を含めたキャリアステップについて明記し、入社を検討している留学生に、入社後のキャリアのイメージを持ってもらえるようにしています(※21)。また入社後も、配属先の上長との定期面談を通じて本人のキャリア意向を確認するとともに、その実現に向けた目標設定、サポート、評価を行っています。

5.日本が選ばれ続けるような体制づくりが重要

主に人手不足の解消を目的として進んできた日本の外国人介護職の受け入れですが、外国人介護職本人の意識に目を向けると、「将来の自分の糧になる経験や技術等を得たい」という強い気持ちを持って日本に来ていることがわかります。

世界各国で高齢化が進むなか、介護人材は争奪戦状態になっており、日本が就労先として選ばれなくなることを危惧する声もあります(※22)。日本の介護現場が選ばれ続けるためには、彼・彼女らの意欲や期待に応えられる受け入れ体制・日本語を含む教育体制・キャリア支援の体制を整えることが必須であると考えられます。

今後はより一層、「日本の介護現場で働くと、こんな経験ができて、こんなスキルが身に着き、こんなキャリアを描けますよ」ということを明確にアピールしていくことが必要となるでしょう。

そのためには、業界をあげて介護の専門性を高め、それを言語化し、伝えていくことが不可欠です。そのような努力は、介護の仕事の魅力を高め、日本人にとっても介護職を「目指したくなる職業」にしていくことに繋がるはずです。

注記
(注1)この4つの制度に加えて、「身分に基づき在留する者(日本人の配偶者など)」「資格外活動(留学生のアルバイトなど。週に28時間以内の就労が認められる)」の外国人も、介護施設で働くことができます。
(注2)インドネシアからの受け入れは2008年度、フィリピンからは2009年度、ベトナムからは2014年度からそれぞれ行われています。
(注3)介護福祉士養成施設に通って介護福祉士合格を目指す「就学コース」もあります。

引用文献
※1 厚生労働省「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(令和3年10月末現在)
※2 厚生労働省 第28回社会保障審議会 平成31年2月1日資料2「今後の社会保障改革について―2040年を見据えて―」
※3 厚生労働省「第8期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について」
※4 厚生労働省「総合的な介護人材確保対策(主な取組)」
※5 矢澤朋子(2021)「コロナ下でも、外国人介護人材は増加 強い労働力需要に加え、政府の外国人介護人材受け入れ制作が奏功」大和総研ホームページ
※6 厚生労働省「外国人介護人材受け入れの仕組み」
※7 三菱UFJリサーチ&コンサルティング「外国人介護人材の受入環境の整備に向けた調査研究事業報告書」(平成31年3月)平成30年度老人保健事業推進費等補助金(老人保健健康増進等事業分)
※8 国際厚生事業団(JICWELS)「2022年度版 EPAに基づく外国人看護師・介護福祉士候補者受け入れパンフレット」
※9 出入国在留管理庁「令和3年6月末現在における在留外国人数について」
※10 外国人技能実習機構(OTIT) 「平成29年度・平成30年度外国人技能実習機構業務統計」「令和元年度外国人技能実習機構業務統計」「令和2年度外国人技能実習機構業務統計」
※11 出入国在留管理庁「各四半期末の特定技能在留外国人数(令和3年9月末 概要版)」
※12 浅井亜希子,箕浦康子.(2020)「EPAインドネシア人看護師・介護福祉士の日本体験 帰国者と滞在継続者の10年の追跡調査から」明石書店
※13 小平達夫(2021)「べトナム人介護技能実習生入国第1陣の入国直後のデプスインタビュー報告」富山短期大学紀要第57巻 pp.146-157
※14 三菱UFJリサーチ&コンサルティング「外国人介護人材の受け入れ実態等に関する調査事業報告書」(令和2年3月)令和元年度 老人保健事業推進費等補助金老人保健健康増進等事業
※15 伊藤鏡(2015)「外国人介護福祉士候補者の介護技能評価と就労意向に関する一考察―インドネシア第二陣受け入れ施設への調査からの示唆―」『社会福祉学』第56巻第3号 pp.74−87
※16 池田佳代,村中康子, ファム・ホアン・アイン, 沼田秀穂.(2018)「外国人労働者の環境に関する一考察―ベトナム人看護師・介護福祉士候補者を対象として―」『環太平洋大学研究紀要』第12巻 pp.19-28
※17 奈良玲子(2020)「外国人介護士のキャリア志向についての一考察―職業としての介護士を目指すプロセスについて―」『比較文化研究』No.140 pp.267-277
※18 河内康文(2021)「経済連携協定(EPA)介護人材をめぐる介護現場での経験の様相」『社会福祉学』第61巻第4号 pp.100-113
※19 河内康文(2020)「Economic Partnership Agreement介護福祉士の職業経験とキャリアに対する認識―EPA介護福祉士・管理者に対するインタビュー調査に基づく質的分析―」『介護福祉教育』第24巻第1号・第2号通巻 pp.85-94
※20 三菱 UFJ リサーチ&コンサルティング株式会社(2020)「外国人介護職員の受け入れと活躍支援に関するガイドブック」
※21 株式会社ベネッセスタイルケア 留学生向け採用ホームページ
※22 日本経済新聞 2022年2月7日朝刊「「介護の質」人員減でも維持 規制緩和へIT活用実証」

著者プロフィール

林 奈実Nami Hayashi

プロフィール

ベネッセスタイルケアのシンクタンクであるベネッセ シニア・介護研究所所属

ベネッセ シニア・介護研究所ホームページ

東京外国語大学大学院 総合国際学研究科 博士前期課程 言語応用専攻 日本語教育学専修コース修了。修士(学術)、介護福祉士。株式会社ベネッセスタイルケア入社後、有料老人ホームで介護職として勤務したのち、2016年より現職。成長とキャリアに着目した外国人介護職の受け入れと定着支援のあり方、介護現場のノウハウの集約と横展開、高齢者の心身の状態を整えるための介入手法などのテーマに取り組んでいる。

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