公開日:2022/03/24

更新日:2022/04/19

認知症ケア事例|役割を担うことを通して自分の居場所を見つけるための支援

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この記事では実際の認知症ケアの事例をもとに、介護施設に入居したことで「居場所がない」と感じていた認知症の方への支援方法についてわかりやすくご紹介しています。認知症の方でも利他的な役割を持つことで達成感や充足感を持ち、自信を取り戻すことで穏やかに過ごされるようになった事例について解説しています。

認知症ケア事例|役割を担うことを通して自分の居場所を見つけるための支援

認知症の方が役割を持つことの意味

高齢になっても、もちろんさまざまなかたちで社会参加は可能です。しかし、定年退職で仕事関係のコミュニティから離れたり、介護施設に入居して住み慣れた地域のコミュニティから離れてしまったりすると、途端に何をすればいいかわからなくなった、という方も少なくありません。

できるかたちで継続的にコミュニティに参加したり、小さなことでも何かの役割をもって責任を果たすということは、結果的に筋力の維持や対人交流の促進、達成感の醸成などに繋がるため、とても重要なことです。

もちろん認知症の方でも社会参加が大切なことであるということは変わりなく、コミュニティに参加し、役割を果たす過程でBPSD(認知症に伴う行動心理学的症候)の軽減や、認知機能の維持を目指すことが可能です。

高齢者にとっての社会参加とは

認知症ケア事例|役割を担うことを通して居場所を見つけるための支援

高齢者の社会参加は下記のようなものが考えられます。

  • 就労
  • 自治会、町内会などの自治組織の活動などを含めた近所づきあい
  • ボランティアなどの社会奉仕活動
  • 自己啓発・趣味などの生涯学習
  • デイサービス・デイリハビリなどの通所サービス

上記からもわかるとおり、人と繋がることが社会参加につながります。まずは小さなことからでも始めることが大切です。家庭内で利他的な役割を担ったり、人と繋がれるような趣味の教室に通うなども立派な社会参加になります。

社会参加をすることで死亡率低下、筋力の維持という研究結果も

静岡県高齢者コホート調査(平成11年から、静岡県内の高齢者14,001人を対象に生活習慣や社会参加状況などに関する追跡調査)では、運動習慣・栄養状態・社会参加について良い習慣がある方は、そうでない人を基準とすると、死亡率が51%も低下したという結果が出ています。

引用みんなで実践する健康づくり「ふじ33プログラム」|静岡県公式ホームページ

また、社会参加をする人としない人で筋肉量減少が起こっているか起こっていないかを見たときに、やはり社会参加している人の方が筋肉量が多いという研究結果も出ています。

認知症の方の社会参加に向けた介護職の関わり方

では、認知症の方の社会参加をどのようなかたちで私たちは支援できるのでしょうか。認知症の方は、認知症になってしまったことで自信をなくしていたり、孤独感を感じている場合が多いため、社会参加はその方にあった支援方法を模索する必要があります。

ストレスのない関わり方を実践する

認知症というのは見た目ではわかりづらいため、一見してできそうなことでもできない、というケースも多く、その見極めをせずにできないことをお願いしたり、役割を担っていただくとストレスを感じ、それが認知症の進行やBPSDが現れるきっかけになってしまう可能性があります。

下記のようなストレスのかからない関わり方を実践しましょう。

ストレスのない関わり方の例

  • 否定せず、受け入れる
  • 新規なことは避け、慣れ親しんだことをしてもらう
  • 繰り返し説明する
  • 見本を示し、導いてあげる
  • 褒める、ねぎらう
  • 選択肢を減らしてわかりやすくする
  • 安心してもらう
  • 気を紛らわせる

その方の人となりにあったこと(得意なことや好きなこと)で社会参加を促す

認知症の方は直近のことは覚えられなくても、昔のことは覚えているケースが多いです。昔得意だったことや仕事や趣味で継続的にやってきたことなどの人となりを理解した上で提案をしてみましょう。

認知機能が低下している方でも、社会参加する事例がでています。ぜひ丁寧なコミュニケーションでその方を理解するところから始めることをおすすめします。

認知症ケアの手掛かり「あなたと生きる世界をつくることば」

今回ご紹介するのはベネッセスタイルケアの認知症ケアから生まれたその方らしさに深く寄りそう40の手掛かり「あなたと生きる世界をつくることば」をケアに取り入れた事例です。

ベネッセスタイルケアの認知症ケアから生まれた手がかりを実践

「あなたと生きる世界をつくることば」は、300を超えるベネッセスタイルケアのホームの認知症の方をはじめとするさまざまなご入居者にうまく寄りそえた事例を集めて比較・分析し、再現性を生むためにパターン・ランゲージ※の手法を用いて言語化したもので、ベネッセスタイルケアの社内で活用されています。

※1970年代に、都市計画・建築家のクリストファー・アレグザンダー氏が提唱した、建築・都市計画法において真の住民参加を実現するための共通言語を構築・活用する理論。

リンク認知症ケア実践から生まれたその方らしさに深く寄りそう40の手掛かり「あなたと生きる世界をつくることば」|ベネッセスタイルケア

入居に納得されていない方への対応事例:施設内で役割を果たすことで見つけた自分の新しい居場所

今回ご紹介するのは、ベネッセスタイルケアの有料老人ホームに入居されたC様の事例です。C様は入居当初、老人ホームに入居したことに納得されておらず、ご自身の居場所はここではないと感じていらっしゃる様子でしたが、ご本人にホーム内で役割を担っていただくことで、施設を自分の居場所だと思えるようになりました。

C様について(ご本人のお困りごと・実現したいこと)

認知症ケア事例|役割を担うことを通して自分の居場所を見つけるための支援

C様 80代 要介護3 アルツハイマー型認知症

  • ベネッセスタイルケアの有料老人ホームへの入居を納得しておらず、「こんなとこにいられない。息子のやっている飲食店を手伝わないと」と仰り、自分の居場所はここではないと感じている様子
  • もともと世話好きで、誰かの役に立ちたいという想いが強い
  • 「子どもには子どもの自由があり、自分はひとりで生きていかなくちゃ」「弱みは家族であっても見せたくない」という主旨の発言を度々される

C様に施設を自分の居場所だと思っていただくための取り組み内容

役割を担うことを通して自分の居場所を見つけるための支援

少しでも施設での暮らしを良いものにしていただくために下記のような取り組みを実施しました。

  • 実施期間:入居後から長期間で現在(21年11月)まで継続中
  • メンバー:介護職・看護職・ケアマネジャー・ホーム長・フロントスタッフなどの多職種

1.人となりについて理解を深める

まずはご本人がどんなことに関心をお持ちか探るため、C様に「あなたと生きる世界をつくることば」の手掛かり一覧をお見せしながらお話を伺ってみました。

すると、さまざまな手掛かりに関心を示されましたが、お話の中心は、以前食堂を経営し、お好み焼きやラーメンを提供していたころのことでした。お店の近くにあった会社に勤務する人たちがよく食べに来たこと、お好み焼きを提供する際の詳細な様子や味付けのこだわりなど、お店のことを鮮明に思い出しながらお話しくださいました。

その様子は誇らしげで、ご自分の商品に対するこだわりが強いことや、昔から世話好きな方であったことが窺えました。このときにわかったC様の大事にされていることや得意なことをヒントに取り組みの方向性を決定しました。

使用した認知症ケアの手掛かり

認知症ケア実践から生まれたその方らしさに深く寄りそう40の手掛かり あなたと生きる世界をつくることば「知る知る未知る」

認知症ケア実践から生まれたその方らしさに深く寄りそう40の手掛かり あなたと生きる世界をつくることば「すわる」

2.簡単なところから役割を担っていただく

「ご自身で食堂を経営しており、お好み焼きを提供していた」という経歴をヒントに、まずはお好み焼きを作るイベントを施設内で開催しました。

計画段階でC様に包丁を持っていただくことについて、しっかりとアセスメントを行い、リスクを洗い出して環境を整えました。

C様はイベント当日、鮮やかな手つきでキャベツを千切りにしてくださったり、卵を片手で割ったり、材料を混ぜてくださったりと大活躍!長年お店をしてこられた記憶がしっかり刻まれているのだと感じられました。

職員が感謝をお伝えすると「たいしたことないです、なんか恥ずかしい」と照れながらも笑顔を見せて下さいました。

使用した認知症ケアの手掛かり

認知症ケア実践から生まれたその方らしさに深く寄りそう40の手掛かり あなたと生きる世界をつくることば「美味しい郷土料理」

認知症ケア実践から生まれたその方らしさに深く寄りそう40の手掛かり あなたと生きる世界をつくることば「包丁も渡す」

認知症ケア実践から生まれたその方らしさに深く寄りそう40の手掛かり あなたと生きる世界をつくることば「一緒に喜ぶ」

3.継続的な役割を創造する

イベントは大成功に終わりましたが、頻繁にお好み焼きを作ることは難しいため、C様にはおやつの時間に他のご入居者の飲み物のオーダーを取り、提供をお手伝いいただく取り組みを行いました。

C様は他のご入居者に飲み物のご希望を伺うだけでなく、提供する際には「こぼしたらあかんから気いつけよ」、少し体調がすぐれなかったご入居者がお部屋に戻られる際には「お大事にね」など、さまざまなお声がけをしてくださいました。

使用した認知症ケアの手掛かり

認知症ケア実践から生まれたその方らしさに深く寄りそう40の手掛かり あなたと生きる世界をつくることば「お互いさまですから」

取り組みの結果:施設を自分の居場所だと感じていただけるように!さらに集中力もアップ

認知症ケア事例|役割を担うことを通して自分の居場所を見つけるための支援

取り組みの結果、C様に下記のような変化が見えるようになってきました。

1.利他的な役割を持つことで施設が自分の居場所だと思っていただけた

C様は入居当初に比べると、「ここにいてええの?」「なにかできへんの?」と、施設のことを「住んでいい場所=自分の居場所」と思ってくださっている言葉が徐々に増えました。

おやつの時間のお手伝いも、はじめのうちは職員からオーダーを取っていただけるようお声がけしていましたが、回を重ねるごとにご自分から自発的に取ってくださる日も増えてきました。

またもともとテーブル拭きなどはしてくださっていましたが、この取り組みを始めてからは、「こういうのはプロだから。ずっとやってきてたからね」と下膳や食器洗いなどをしてくださることも多くなりました。

「昔、食堂やってたときいつも拭いてたし洗ってたんや。まかせて」といった言葉からはご自身の経験についての自負が、仕事をお願いしたときの 「なんでも言ってちょうだいね。やることないからありがとね」という言葉からは誰かのために何かをしたいという気持ちをお持ちであることが垣間見えます。

2.レクリエーションへの参加も積極的&集中力もアップ

さらに、C様はご自身の役割を担っているときだけではなく、レクリエーションなどの時間でも生き生きとされるご様子が増えてきました。

アロマヨガのセルフストレッチでは、これまでは集中力が持たずオリジナルのポーズを取ってしまっていたのが、30分集中してインストラクターのやる通りにされるようになりました。

園芸療法の際の回想法では、これまでいろいろな話が混ざってしまっていたのが、昔のお友達の名前や遊んだことを細かく15分も語ってくださるなどのことがありました。そのほかにも作業療法士と藤細工を一緒に行うなど、集中して何かに取り組まれる時間が徐々に増えています。

まとめ:認知症の方でも「誰かのためになりたい」という気持ちをもっている

介護施設に入居される方は、若いころ仕事などを通じて人の役に立つことを生きがいにしていた方も多く、そんな方にとって入居に際して感じる孤独や退屈、やることがない、行くところがない、といったことが精神的な症状が出る背景になっているケースもあります。

今回の事例のように日常生活の中でご本人がやりたい「ちょっとしたこと」が続けてできることが、施設をご自分の「居場所」と感じていただけることに繋がります。

ぜひこの記事を参考にご自身のケアに活かしてみてください。

監修者プロフィール

秋下 雅弘Masahiro Akishita

プロフィール

東京大学大学院医学系研究科教授(老年病学・加齢医学)。1960年鳥取県生まれ。1985年東京大学医学部卒業。東京大学医学部老年病学教室助手、ハーバード大学研究員、杏林大学医学部助教授、東京大学大学院医学系研究科准教授などを経て、現職。日本老年医学会理事長、日本老年薬学会代表理事、日本認知症学会代議員など学会役員多数。専門は老年医学、特に高齢者の薬物使用、老年病の性差。


公式プロフィールページ

著者プロフィール

介護アンテナ編集部Kaigo Antenna Editorial Department

プロフィール
株式会社ベネッセスタイルケア運営の介護アンテナ。編集部では、ベネッセの25年以上にわたる介護のノウハウをはじめ、日々介護の現場で活躍している介護福祉士や介護支援専門員(ケアマネジャー)、看護師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士などの高齢者支援のスペシャリストたちの実践知や日々のお仕事に役立つ情報をお届けします!


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