公開日:2022/03/24

更新日:2022/03/25

認知症ケア事例|ADL低下予防!活動量減少傾向のご利用者の想いを引き出すケア

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この記事では実際の認知症ケアの事例をもとに、身体の痛みがあるため、身体を動かすことに消極的になっている認知症の方への支援方法についてわかりやすくご紹介しています。認知症とADL低下の関係や、活動量が減少傾向にあったご利用者が、ご自身の望むかたちで活動量を向上させることにつながった事例について解説しています。

認知症ケア事例|ADL低下予防!活動量減少傾向のご利用者の想いを引き出すケア

認知症とADL(日常生活動作)低下の関係

「認知症や老化に伴う認知機能低下により、ADLが低下する」というのは多くの方が知っていることではないでしょうか。

食事や着替え、排泄、入浴など、人間が生活を送るうえで欠かすことのできない基本的な動作の「ADL(日常生活動作)」。ADLが低下する背景には、認知症と一体どのような関係があるのでしょうか。

ADL(日常生活動作)低下とは

ADL(日常生活動作)低下とは

ADL低下は、身体機能、認知機能の低下と関わりがあると言われています。これらが低下することで、食事や着替え、排泄、入浴などの日常生活の動作を行うことが難しくなります。

また活動量が減少すると、意欲の低下が見られたり塞ぎがちになり、他者とのコミュニケーションの機会も減ります。それにより身体や脳の機能が低下し、認知症をさらに進行させてしまうことにもつながります。

ADL(日常生活動作)低下の主な要因

ADL低下は、神経疾患、関節疾患、精神疾患、心臓・血管疾患などの各疾患や老化、認知症、脳血管障害、生活習慣病、薬の副作用などが原因で起こるといわれています。

ADL(日常生活動作)低下の主な要因

BPSD(認知症に伴う行動心理学的症候)によりADLが低下した方との関わり方

ご利用者に意欲低下や塞ぎ込みがみられるときに、やみくもに行動や参加を促すお声がけをするとご利用者の気持ちを害してしまったり、プレッシャーを感じてしまう可能性があります。

気持ちに寄りそいうまく関わるにはどうすればよいのでしょうか。

気持ちを尊重したお声がけと出来ることの見極め

ADL低下により今までできていたことができなくなったり、身体を思うように動かせなくなった場合、ご自身の変化を受け止められず、ご利用者はショックを受けるケースが多くみられます。それぞれのご利用者の状況や性格に添ったお声がけをするようにしましょう。

また、できないことを良かれと思いスタッフが全て代わりに行ってしまうと、ご利用者の自尊心を傷つけたり、できていたこともできなくなってしまいます。何ができなくて何ができそうなのかを見極め、ご利用者の可能性を摘んでしまうことがないように注意しましょう。

ADL低下を防ぐためのQOL向上の環境

ADLとQOL(生活の質)は比例する関係にあるといわれており、QOLを高く保つことで日々元気に生活を送ることができ、ADL維持の手助けとなります。

美味しいものを食べたり、ご家族やご友人との雑談などでも「生きがい」「充実感」を感じていただけます。また、趣味や地域活動などを通じて他者との関わりを増やし、社会的な環境に身をおくことでも生活に張りが出てQOL向上につながります。

ご利用者それぞれにあった充実した生活が送れるような環境をご提案できるように心がけてみましょう。

認知症ケアの手掛かり「あなたと生きる世界をつくることば」

今回ご紹介するのはベネッセスタイルケアの認知症ケアから生まれたその方らしさに深く寄りそう40の手掛かり「あなたと生きる世界をつくることば」をケアに取り入れた事例です。

ベネッセスタイルケアの認知症ケアから生まれた手がかりを実践

「あなたと生きる世界をつくることば」は、300を超えるベネッセスタイルケアのホームの認知症の方をはじめとするさまざまなご入居者にうまく寄りそえた事例を集めて比較・分析し、再現性を生むためにパターン・ランゲージ※の手法を用いて言語化したもので、ベネッセスタイルケアの社内で活用されています。

※1970年代に、都市計画・建築家のクリストファー・アレグザンダー氏が提唱した、建築・都市計画法において真の住民参加を実現するための共通言語を構築・活用する理論。

リンク認知症ケア実践から生まれたその方らしさに深く寄りそう40の手掛かり「あなたと生きる世界をつくることば」|ベネッセスタイルケア

ADLが低下した方への認知症ケア事例:意思を重視したケアで活動量アップ!自ら行動し周りとの関わりを持たれるほどに

今回ご紹介するのは、ベネッセスタイルケア有料老人ホームに入居されたD様の事例です。BPSD(認知症に伴う行動心理学的症候)の「意欲低下」の症状がみられ、ADLも低下していましたが、ご本人の意思を尊重した継続的なケアを行い、ADL低下を防ぎQOL向上につながる結果となりました。

D様について(ご本人のお困りごと・実現したいこと)

D様 90代 要介護3(認知症の診断あり)

  • もともとは社交家で何でも好奇心があり、人当たりの良い方
  • 圧迫骨折による疼痛があり、入院(その後退院)を機にほとんど動かなくなってしまい、認知症も進行
  • 今までほとんど参加されていた体操などの集団レクリエーションへの参加もなくなり、ADLがさらに低下
  • お部屋で寝ていることも多く、他者との関わりに消極的
  • 大好きだったお寿司も「そんなに食べたくない……」と仰り、トイレに行くことも面倒だと感じられているご様子

「意欲低下」により活動量が減少傾向のあるD様に対しての取り組み内容

スタッフの間ではD様の人当たりの良い性格から、大勢でのレクリエーションがお好きだと思い込んでいましたが、実は一人でコツコツ行う手芸がお好きとのことでした。昔されていた編み物に興味を示しやりたいとご希望されたため、編み物をケアプランの重点項目として下記の取り組みを実践しました。

  • 実施期間:約1ヶ月
  • メンバー:担当介護職員を中心に、その他介護職・ケアマネジャー・看護師・理学療法士(PT)・ホーム長など

1.望む気持ちを引き出す

D様に「あなたと生きる世界をつくることば」の手掛かり一覧をお見せしながら、興味を示したことについてお話を伺いました。「なじみのものをちりばめる」の手掛かりを見て、昔されていた「編み物」が思い浮かんだご様子でした。

「自分は手を動かすことが好きだからやってみたい」とご希望されたので、編み物をケアプランの重点項目とし、日々コツコツとやれるようにサポートするようにしました。

取り組み初日は、編み物の道具をお渡しすると滑らかな手つきで30分ほどされ、スタッフにも編み方を教えてくださるご様子もみられました。

使用した認知症ケアの手掛かり

2.継続したお声がけ

その後も継続的にお声がけを行いました。ときには自信がなさそうな発言もありましたが、編み物を始めると集中され長い時は約2時間くらい続けられました。D様が長い時間集中して取り組むことができるという一面は、スタッフにとって新たな発見となりました。

D様は「今日はいいわ」と仰る日もありましたが、取り組みを始めて1ヶ月間、ほとんど毎日編み物を行われました。

使用した認知症ケアの手掛かり

3.心と行動の変化を読みとり見守る

できあがりが気に入らないのか、編み物の作品をほどかれることも多くみられましたが、手を動かすこと自体が楽しいと感じているご様子です。そして編み物をする際には、昔のお話を楽しそうにされていました。

また、「基礎編みを教えてあげるわ」と職員に編み方を教えてくださることもありました。

使用した認知症ケアの手掛かり

4.ご自身のご希望を尊重したケア

ある日、D様が「(編み物を)ここでやる?向こう(コミュニティルーム)でもいいよ」と仰ったため、コミュニティルームにご案内しました。ほかのご入居者がいる賑やかな雰囲気の中でも30分以上集中して編み物をなさいました。

D様はその後、ご自分のお部屋ではなくコミュニティルームで編み物をするようになり、活動量もアップしてきました。

使用した認知症ケアの手掛かり

取り組みの結果:D様の活動量が増え、周りの方との関わりにも積極的になった

認知症ケア事例|活動量が減少傾向のご利用者の気持ちを引き出し、QOLの維持とADL低下の予防につなげる

約1ヶ月の取り組みの結果、D様に下記のような変化が見えるようになってきました。

1.自信を取り戻し、堂々とされるようになった

編み物をされる際に昔のお話を楽しそうにされるご様子が見られました。また、「編み物を教えてあげる」と仰るご様子から人のために役に立ちたいという、お気持ちが窺え、一時的に失われていた自信を取り戻し、堂々とされるようになりました。

2.取り組み以外の時間も自主的に移動されるようになった

編み物の時間だけでなく、これまでなら眠くて動いていただくのが難しかった朝の時間帯に、「これからご飯よね、どこ?」 とコミュニティルームまで歩行器で出てこられたことが何回もありました。そういった行動から、周囲との関わりを求められるなどの変化が感じられました。

また取り組み開始当初は食事介助が必要で、お食事も食べやすい形態のものをご提供していましたが、今では介助も必要なくなり、普通食をご自身でおいしそうに召し上がっています。さらに、周囲の方に「ちゃんと食べないと」とお声がけされているシーンも見受けられるほど変化しました。

併せてレクリエーションへの参加回数が増えたり、夜間トイレにいくためのナースコールも増えるなど、ご自身で動かれる意識が目に見えて感じられるようになりました。

3.今後もお好きなことで!活動量向上に前向きな気持ちを覗かせる

取り組み開始から1ヶ月ちょっと経ったところで、入院のために取り組みはいったん中断となりました。しかし退院後、ADLなどにも注意しながら徐々に取り組みを再開し、編み物もまたされるようになっています。

これからもD様のお好きなことで活動量もアップしていくよう、前向きな気持ちで取り組んでいかれるとのことです。

まとめ:気持ちに寄りそい引き出すことで、心と行動(活動量)の変化につながる

今回ご紹介した事例では、身体に支障があるD様の「やりたい」ことを引き出せたことが、結果的にD様のお気持ちの変化や活動量の変化にまでつながりました。

お声がけは毎日コツコツと行いながらも、D様のペースやご希望をうまく取り入れ活かせたことで、前向きな変化につながったのだと考えられます。

編み物をやっていただけないときは、ただお誘いするのではなく、職員が教えを乞うなどお声がけの方法を変えたり、食事についても好きなものを召し上がっていただくために医師や看護師と相談しながらコルセットを外すなど、できる限りさまざまな取り組みを実践したことが成功の鍵になりました。

認知症ケアでは、ご本人のご希望を取り入れ、心地よくケアを受けていただくことも重要です。ご本人がどんなことを希望しているのか、直接お話を伺うだけでなく、日々の言動から気持ちを想像してご本人への理解を深めることも大切です。ぜひこの記事を参考に、ご利用者のケアに取り組んでみましょう。

監修者プロフィール

秋下 雅弘Masahiro Akishita

プロフィール

東京大学大学院医学系研究科教授(老年病学・加齢医学)。1960年鳥取県生まれ。1985年東京大学医学部卒業。東京大学医学部老年病学教室助手、ハーバード大学研究員、杏林大学医学部助教授、東京大学大学院医学系研究科准教授などを経て、現職。日本老年医学会理事長、日本老年薬学会代表理事、日本認知症学会代議員など学会役員多数。専門は老年医学、特に高齢者の薬物使用、老年病の性差。

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著者プロフィール

介護アンテナ編集部Kaigo Antenna Editorial Department

プロフィール
株式会社ベネッセスタイルケア運営の介護アンテナ。編集部では、ベネッセの25年以上にわたる介護のノウハウをはじめ、日々介護の現場で活躍している介護福祉士や介護支援専門員(ケアマネジャー)、看護師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士などの高齢者支援のスペシャリストたちの実践知や日々のお仕事に役立つ情報をお届けします!


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