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この記事では介護職向けの認知症ケアの基本についてわかりやすく説明しています。その方らしさを理解すること、認知症の知識(記憶のメカニズム、認知症の種類・症状)を深めることなど、認知症ケアに際して介護職が覚えておきたい内容です。ぜひ日々のケアに活かしてください。
本記事はベネッセスタイルケアでのホーム運営を通して得られた実践知をもとに作成し、東京都健康長寿医療センター センター長の秋下雅弘氏に監修いただいた内容となっています。
認知症ケアとは、認知症の方に対し、そのご家族や関わる介護職・看護職などの専門職が安心して生活していただけるよう介護や看護などの支援を行うことを指します。
認知症ケアにおいて「その方らしさを知る」、「認知症の知識を深める」が重要です。本記事では認知症ケアについて迷いがある、どうしたらいいかわからない、という介護職の方に向けて、基本的なことをわかりやすくご説明します。
認知症ケアにおいて重要なのは「その方らしさを知る」ということです。生まれてから今に至るまでの、環境・関わり・時代・いろいろなものでその方らしさは作られます。
ベネッセスタイルケアの運営する老人ホームに、いつも「家に帰りたい」と必死に訴えるA様という女性のご入居者がいらっしゃいました。その方は「わたしが帰らなかったらおじいさんのご飯は誰が作るの!」としきりに心配しておられました。
その頃のA様は毎日「家に帰るにはどうしたいいか」と興奮気味にホームの中を歩き回っていらっしゃいました。座って過ごす時間も少なく、職員との会話も難しい状況でした。
どうしたらA様に施設で穏やかに過ごしていただけるかを職員で考え、ご入居前の生活習慣であったお料理をしていただくことにしました。身体機能が低下しているA様のため、料理をはじめる際には職員でリスク予測とその対応方法を決め、実施しました。
A様には料理をしていただくだけではなく、ご本人のこだわりを尊重した上で調理していただきました。ほかのご入居者や職員も作った料理を一緒に美味しくいただく環境を用意するなど、A様の今までの人生で大切にされてきたひとときを再現するような演出を行いました。
それを繰り返していくうちにA様から「家に帰りたい」という言葉が聞かれる回数はすっかり減り、集中して手慣れた様子で料理をしたり、ほかのご入居者や職員と会話する機会が増えたり、笑顔が多く見られるようになりました。
上記の事例で重要なことは「料理をつくること」ではありません。ポイントは「長年続けてこられたご自身のこだわりの方法で料理をつくり、周囲の方に食べていただくこと」ではないでしょうか。
職員が簡単なレシピを用意し、包丁や火などを使わずに料理すれば安全かもしれませんが、同じような結果にはならなかったかもしれません。
今までA様が大切にしてこられたことを尊重し、思うがままやっていただけたことで、施設を自分の居場所だと感じていただけるようになったのではないでしょうか。
このように認知症ケアでは、認知症の症状だけに注目し、「そういう方だから仕方ない。とにかく安全に過ごしてもらえればそれでいい」とあきらめてしまっては、その方のありたい姿や状態へ向けて支援は叶いません。
その方のどんな思いや不安、こだわり、過去からの経験などがその症状・行動に繋がっているのかを理解し、リスクと向き合いながら、その方がご自分らしく過ごしていただけるよう支援することが大切です。
認知症は徐々に進行していきます。認知症についての知識を得ることで、進行を踏まえてアセスメントできるようになれば、ご利用者について「今」知っておかなければいけない観点も整理しやすくなっていきます。
正しい知識を身につけて、ケアに活かせるようにしましょう。
認知症は厚生労働省のホームページでは下記のように定義されています。
認知症は、脳の病気や障害など様々な原因により、認知機能が低下し、日常生活全般に支障が出てくる状態をいいます。
脳の細胞が壊れることによって直接起こる症状が、記憶障害、見当識障害、理解・判断力の低下、実行機能の低下など中核症状(認知機能障害) と呼ばれるものです。これらの中核症状のために認知症の方は周囲で起こっている現実を正しく認識できなくなります。
また、ご本人がもともと持っている性格、環境、人間関係などさまざまな要因がからみ合って、うつ状態や妄想のような精神症状や、日常生活への適応を困難にする行動が起こってきます。これらをBPSD(認知症に伴う行動心理学的症候)と呼びます。
下記の文章を読んで、どの部分が中核症状で、どの部分がBPSDなのか区別してみましょう。
なぜこのように区別できるのか、中核症状とBPSDについて詳しく学んでいきましょう。
中核症状(認知機能障害)とは、神経細胞の減少に伴って直接起こる症状のことであり、進行性で症状は増えていきます。
認知症の方にはさまざまな症状が見られますが、その症状がBPSDではなく中核症状であると考えられる場合、現在の医療では根治することができないため、支援が必要となります。
認知症による症状は日常生活に支障が出て初めて気づきます。ご本人ができること、できないことを見極めるためにも、生活の支障となっている中核症状を理解することが重要です。
BPSD(認知症に伴う行動心理学的症候)は、中核症状から引き起こされる二次障害です。
記憶障害や見当識障害などの中核症状が背景にあり、それに身体的な要因や心理・生活・社会的な要因、環境的な要因などのさまざまな要因が作用して出現します。
また、認知症の方の一部にみられる症状であり、中核症状とは異なり介護の工夫や薬物による治療で緩和される場合があります。
認知症には、今の医療(2021年現在)では治すことができない認知症と治療可能な認知症があります。
認知症の病型によって、原因や特徴的な症状が異なります。それぞれの脳には独自の働きがあり、その働きが障害されることで現れる症状も違います。
アルツハイマー型認知症は、症状が徐々に悪化する進行性の神経変性疾患であるアルツハイマー病によって起こる認知症です。脳にβ(ベータ)アミロイド及びタウという異常なタンパク質が溜まることがアルツハイマー病の原因で、それを取り除く薬の開発も進められています。
まず脳の側頭葉の部分にある海馬の萎縮から始まり、大脳の萎縮が次第に進み、さらに進むと脳全体が萎縮します。
アルツハイマー型認知症の場合、進行とともに、萎縮する脳の部位が広がってくるので、初期・中期・後期 と現れる症状が違います。現れる症状やその方の想いに合わせた支援を考えていきましょう。
脳の神経細胞の中に「レビー小体」と呼ばれる異常なたんぱく質の塊がみられ、このレビー小体が脳幹や脳の中心部や大脳皮質に広く現れて認知症や精神症状をきたしているのがレビー小体型認知症です。
尚、レビー小体が脳幹部のみに蓄積するとパーキンソン病となります。
幻視は、実際に見えないものがご本人にはありありと見える症状です。認知症になっても人格はしっかり残っています。幻視がある方に否定的な言動を取ることで、信じてもらえない、バカにされていると傷つくことがあります。同じ目線で向き合い、安心していただける対応が大切になります。
また時間帯や日によって、頭がはっきりしていて物事を良く理解したり判断できる状態と、ボーっとして極端に理解や判断する力が低下している状態が入れ替わり起こるという症状が現われます。調子のよい時、悪い時など変動する時間帯などを把握し、その方の状態に合わせた支援を考えていきましょう。
前頭側頭型認知症は、前頭側頭葉変性症のうちのひとつであり、脳の中で判断力、抑制、言葉の理解に関する部分が萎縮します。
初期には、物忘れなどはあまり見られず、相手に対して配慮ができない、相手に対して暴力をふるうなどの非常識な行動が目立ちます。周りの声や人の動きなど外からの刺激に敏感になりやすいのが特徴です。
前頭葉は喜怒哀楽や思いやり、規律を守るといった人間らしい活動を支えています。
その部分が障害されることで、他人に配慮することができなくなり、周りの状況に関わらず、自分が思った通りに行動してしまうという性格変化や行動の変化がみられます。
ご本人の状況や持っている能力を把握し、安全、安心につながる支援を考えていきましょう。
脳血管性認知症とは脳梗塞や脳出血などにより脳の血管が閉塞することで、閉塞した先の脳細胞に血液が流れず、その部分の脳の機能が失われることにより起こる認知症です。
梗塞巣が大きい脳梗塞のあとに認知症が現れるタイプよりも、梗塞巣が小さな梗塞が多数起こり(多発性脳梗塞)、その後に認知症になる例が多いといわれています。
特定の障害エリアはなく、脳梗塞や脳出血などによる脳血管の閉塞部位や障害される範囲に応じてさまざまな症状が現れます。
脳血管性認知症は、たとえば着衣など朝はできていたことが、入浴時にはできなくなることがあります。できるとき・できないときはどういう状況のときなのかを把握し、その状況に合った支援をしていきましょう。
高血圧、心疾患、糖尿病などの動脈硬化のリスクになる合併症の治療と脳血管障害の再発予防が最も重要になります。
認知症ケアはセンスのある人でないとできないことだと思われている方がいらっしゃるかもしれません。しかし、認知症ケアにおいての成功事例、成功事例からつくられたメソッドをみてみると、そこには共通する考え方、その考えに至った知識、情報、実現のための考え方がありました。
認知症ケアが苦手で自信がないという方でも、認知症ケアの考え方を理解し、行っているケアに対する根拠や関連する知識を学ぶことで、今までよりも自信をもってご入居者と関われるようになるでしょう。
認知症に対しての考え方やアプローチ手法から得られるヒントを皆さんのケア・支援に活かすことで、ご利用者がたとえ認知症があっても尊厳と希望を持って共に生きられることを目指していきましょう。
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秋下 雅弘Masahiro Akishita
プロフィール
東京都健康長寿医療センター センター長。1960年鳥取県生まれ。1985年東京大学医学部卒業。東京大学医学部老年病学教室助手、ハーバード大学研究員、杏林大学医学部助教授、東京大学大学院医学系研究科准教授・同教授などを経て、現職。日本老年医学会理事、日本老年薬学会代表理事、日本認知症学会代議員など学会役員多数。専門は老年医学、特に高齢者の薬物使用、老年病の性差。
介護アンテナ編集部Kaigo Antenna Editorial Department
プロフィール
株式会社ベネッセスタイルケア運営の介護アンテナ。編集部では、ベネッセの25年以上にわたる介護のノウハウをはじめ、日々介護の現場で活躍している介護福祉士や介護支援専門員(ケアマネジャー)、看護師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士などの高齢者支援のスペシャリストたちの実践知や日々のお仕事に役立つ情報をお届けします!
コメント
認知症の方の訴えや症状には何かきっかけや原因があるので、その原因を突き止めて、あるいは推定してケアに生かす理論的な対応が大切です。しかし、オムツが濡れたりお腹が空いて泣く赤ん坊とは異なり、心身機能の加齢変化や認知症の病態、人生の物語りは複雑で多彩であり、解きほぐして理解するのは容易ではありません。職員一同で収集した情報に基づき知恵を出し合って初めてご利用者に最適なケアの提供ができるのです。そのためには、職員一人一人が情報と自分なりの仮説を持ち寄ることが第一歩なのです。