公開日:2023/01/18

更新日:2023/01/18

認知症ケア

会話で認知機能低下がわかる!?~最新の認知症スクリーニング検査~

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全国に330施設以上の有料老人ホームを運営しているベネッセスタイルケアの社内シンクタンク(研究機関)である「ベネッセ シニア・介護研究所」の研究員が、介護に関する調査・研究のトレンドや最新情報など、介護現場で活躍されている方に向けて、役立つ情報を発信する連載コラム。第7回目の本記事では、最新の認知症スクリーニング検査についてわかりやすく解説します。

会話で認知機能低下がわかる!?~最新の認知症スクリーニング検査~

認知症のスクリーニング検査とは

認知症のスクリーニング検査とは、対象者の認知機能を評価し、その方が認知症かどうかの診断をするための検査のことを指します。

高齢者人口の増加に伴い、認知症のある方も増えています。高齢になったら認知症になるのはもはや当たり前、と考えるべき時代になってきているのかもしれません。

認知症についての研究が進み、軽度認知障害になっても正常認知機能に回復するケースが一定の割合存在することもわかってきています(※1)。早期段階で認知症の兆候を捉え適切な介入に繋げるために、認知症スクリーニングは重要な役割を果たします。

最新!認知症のスクリーニング検査

認知症のスクリーニングは、知見の蓄積や技術の発達によって変化してきています。今回はその最新動向をお伝えします。

認知機能検査

会話で認知機能低下がわかる!?~最新の認知症スクリーニング検査~

従来の認知機能検査

認知症のスクリーニングは、HDS-R(改訂長谷川式認知症スケール)(※2)やMMSE(ミニメンタルステート検査)(※3)のような認知機能検査によって行われてきました。これらの検査では、日付や今いる場所を尋ねたり、単語を覚えてその単語を言ってもらったり、計算をしてもらったりします。所要時間は6~10分程度です。その他、さらに短い時間(2分程度)で実施できるMini-Cog(※4)や、主に軽度の認知機能低下のスクリーニングを目的としたMoCA-J(※5)なども使われています。

これらのスクリーニング検査の多くは、専門家が実施することが前提となっており、誰でも実施できるというものではありません。そのため、医療職でなくても実施可能なスクリーニング検査が開発されてきました。

たとえば、DASC-21(地域包括ケアシステムにおける認知症アセスメントシート)(※6)は、簡単な研修(e-ラーニング)を受講し修了認定に合格した人が、本人の日常生活の様子について本人のことをよく知る家族や介護者に選択肢形式の質問をします。ABC認知症スケール(※7)は、評価者が本人の状態・状況について介護者に選択肢形式の質問をします。

このように第三者が見た本人の様子を手がかりとした評価でも、従来の認知機能検査のスコアと相関があり、その妥当性が報告されています。

ICT活用で専門職不在のスクリーニングが可能に

また、ICTを活用し、専門職が不在でも認知機能検査を可能とするツールの開発もされています。
TDAS(※8)は、ADAS-cogというスクリーニング検査を改編してタッチパネル式コンピュータで実施できるようにしたもので、所要時間もオリジナルの検査の約1時間に比べると10~20分程度と大幅に短くなっています。また、NCGG-FAT(※9)は、タブレット端末用に開発されたアプリケーションで、所定の研修を受講したうえで、専門家でなくても論理的記憶、単語記憶、注意・遂行機能、情報処理能力などの評価をすることが可能です。

なお、コロナ禍においては、直接対面でのスクリーニング検査の実施が困難となったこともあり、ビデオ会議システムを用いて遠隔で実施することの妥当性に注目が集まっています。

遠隔検査は、対面で行う場合とほぼ同等の結果が得られること、初対面での実施であっても一定の信頼性のある結果が得られていることが確認されていますが、検査者の声の聞き取りにくさや情報のセキュリティに対する配慮が必要であるとの指摘もされています(※10)。

生体情報に基づくスクリーニング

歩き方でわかる認知症のリスク

近年では、各種センシング技術や人工知能(AI)を活用し、眼球運動や会話・音声、表情、歩容などの生体情報を手がかりとして認知症のスクリーニングを行う技術が確立されつつあります。

眼球運動測定によるスクリーニング

眼球運動については、1980年代からアルツハイマー型認知症の人の眼球運動に健常な人とは異なる特徴があることが指摘されていました(※11)。しかし、以前の眼球運動の測定は、対象者に眼鏡やゴーグル型の検出装置を装着したり瞼に電極を貼ったりする必要があり、専門知識が必要なうえ、測定される側の負担感も大きいものでした。

非接触型の眼球運動計測装置が開発されてからは測定される人の負担感は大きく低減し、技術進歩による測定精度の向上や計測の簡便化に伴い、スクリーニングツールとしての利用が可能となりつつあります(※12)。

歩行速度や歩き方によるスクリーニングの可能性も

歩行については、認知症の人において歩行速度の低下や歩幅の短縮、すり足歩行などが見られることが知られています。歩行速度は認知機能の低下を予測できること(※13)に加え、最近では認知機能と歩行速度の低下の重複が認知症リスクの上昇と強く関連していることが指摘されています(※14)。

また、アルツハイマー型認知症とレビー小体型認知症では歩行の特徴が違う(※15)ことから、歩行データは認知症の種類の判定にも役立ちそうです。歩行のセンシングには、人の動きを計測するモーションキャプチャや、トレッドミル(いわゆる「ランニングマシン」)などが使われます。

このような手法によるスクリーニングは、認知機能検査とは異なり何かに回答する必要がないため、「回答を間違える」ことがなく検査を受ける人の自尊心を傷つけることがありません。また、システムがリスク判定をするので専門知識を有する検査者を必要とせず、医療者側の負担軽減にもつながるといった利点があります(※12)。

一方、眼球運動を計測するアイトラッカーやモーションキャプチャなど、特別な装備が必要となることが課題として挙げられます。令和3年度の全国高等専門学校ディープラーニングコンテスト2022(高専DCON)で最優秀賞を受賞した一関工業高等専門学校のD-Walkは、スマートフォンと加速度センサーを入れたインソールを組み合わせた軽度認知障害のスクリーニングシステムであり(※16)、上記のような課題の解決に1歩近づいたシステムであると言えるでしょう。

特別な道具を必要としないスクリーニング

スマートフォンを使って行う認知症のスクリーニング

会話・音声に基づくスクリーニングについては、多くの研究者が研究を行ってきました。当初は語彙の変化に注目した研究が多く、認知症の人は感情表現で「嫌悪感」「怒り」「不安」に分類される感情表現の使用割合が多いことや(※17)、語彙の難解さと特殊性が認知症と関連すること(※18)などが示唆されてきました。しかし語彙を手がかりとした方法の場合、判定のための語彙をまとめた辞書の整備が必要となります。

一方で、認知症のある人は話す内容に特徴があるだけでなく、音声の韻律にも特徴があることがわかってきました。たとえば加藤ら(2011)は音声の高さに関係するスペクトルやピッチ、音声の特徴を表すフォルマント、音声の大きさに関係するエネルギー、時間構造に関連する計130種の音声韻律特徴を抽出・選択・合成することで,音声による認知機能障害評定が導出できることを実験的に示しました(※19)。現在では、自由会話から認知症の罹患を非常に高い精度で判定することに成功した例も出てきています(※20)。

スマートフォンや電話でできる脳の健康チェック

このような成果を活かし、音声解析だけでスクリーニングをする技術の実装にあたっては、スマートフォンのアプリケーションなど、より多くの人が一般的に用いているようなデバイスで利用可能なものが出てきました。

2022年9月21日からは、「脳の健康チェックフリーダイヤル」の無償トライアルも行われています(※21)。これは20秒程度の発話での発話内容(年齢および日付)と声の質をもとに、AIが認知機能の変化を測定することができるサービスであり、フリーダイヤルで誰でも利用できます。このように、特別な道具を用意しなくても遠隔で利用できる認知症のスクリーニング検査が果たす役割は大きくなってくるかもしれません。

スクリーニングを正しく理解し、「疑いあり」の場合は専門医の受診を

認知症のスクリーニング検査は、時代のニーズに合わせてさまざまな形のものが開発されてきました。今後、より簡単で精度の高いものが出てくることが期待されます。

なお、スクリーニング検査はあくまでも検査であって、診断ではないということに注意が必要です。スクリーニング検査で認知症もしくは軽度認知障害の「疑いあり」となった場合には、認知症の専門医を受診することが重要です。

<参考文献>
※1. Shimada, H., Makizako, H., Doi, T., Lee, S., & Lee, S. (2017). Conversion and reversion rates in Japanese older people with mild cognitive impairment. Journal of the American Medical Directors Association, 18(9), 808-e1.
※2. 加藤伸司. (1991). 改訂長谷川式簡易知能評価スケール (HDS-R) の作成. 老年精神医学維誌, 2, 1339-1347.
※3. Folstein, M. F., Folstein, S. E., & McHugh, P. R. (1975). “Mini-mental state”: A practical method for grading the cognitive state of patients for the clinician. Journal of psychiatric research, 12(3), 189-198.
※4. Borson, S., Scanlan, J., Brush, M., Vitaliano, P., & Dokmak, A. (2000). The mini-cog: A cognitive ‘vital signs’ measure for dementia screening in multi-lingual elderly. International journal of geriatric psychiatry, 15(11), 1021-1027.
※5. Fujiwara, Y., Suzuki, H., Yasunaga, M., Sugiyama, M., Ijuin, M., Sakuma, N., Inagaki, H., Iwasa, H., Ura, C., Yatomi, N., Ishii, K., Tokumaru, A. M., Homma, A., Nasreddine, Z., & Shinkai, S. (2010). Brief screening tool for mild cognitive impairment in older Japanese: Validation of the Japanese version of the Montreal Cognitive Assessment. Geriatrics & Gerontology International, 10(3), 225-232.
※6. 粟田主一, 杉山美香, 井藤佳恵. (2015). 地域在住高齢者を対象とする地域包括ケアシステムにおける認知症アセスメントシート (DASC-21) の内的信頼性・妥当性に関する研究. 老年精神医学雑誌, 26(6), 675-686.
※7. Mori, T., Kikuchi, T., Umeda-Kameyama, Y., Wada-Isoe, K., Kojima, S., Kagimura, T., Kudoh, C., Uchikado, H., Ueki, A., Yamashita M., Watabe, T., Nishimura, C., Tsuno, N., Ueda, T., Akishita M., Nakamura, Y., & ABC Dementia Scale Study Group. (2018). ABC Dementia Scale: A quick assessment tool for determining Alzheimer’s Disease severity. Dementia and geriatric cognitive disorders extra, 8(1), 85-97.
※8. Inoue, M., Jimbo, D., Taniguchi, M., & Urakami, K. (2011). Touch panel-type dementia assessment scale: A new computer-based rating scale for Alzheimer's disease. Psychogeriatrics, 11(1), 28-33.
※9. Makizako, H., Shimada, H., Park, H., Doi, T., Yoshida, D., Uemura, K., Tsutsumimoto, K., & Suzuki, T. (2013). Evaluation of multidimensional neurocognitive function using a tablet personal computer: Test-retest reliability and validity in community-dwelling older adults. Geriatrics & gerontology international, 13(4), 860-866.
※10. 飯干紀代子, 山岡義尚, 江口洋子, 加藤佑佳, 成本迅, 吉田和生, 岸本泰士郎, 三村將. (2021). ビデオ会議システムを用いて高齢者に行う神経心理検査—信頼性と実施上の留意点. 認知神経科学, 22(3+4), 158-167.
※11. Hutton, J. T., Nagel, J. A., & Loewenson, R. B. (1984). Eye tracking dysfunction in Alzheimer-type dementia. Neurology, 34(1), 99-99.
※12. 武田朱公. (2021). 最新技術を用いた認知症の早期スクリーニング~ 5G 時代の認知症医療を支えるプラットフォーム~. 日本内科学会雑誌, 110(3), 636-642.
※13. Quan, M., Xun, P., Chen, C., Wen, J., Wang, Y., Wang, R., Chen, P., & He, K. (2017). Walking pace and the risk of cognitive decline and dementia in elderly populations: a meta-analysis of prospective cohort studies. The Journals of Gerontology: Series A, 72(2), 266-270.
※14. Collyer, T. A., Murray, A. M., Woods, R. L., Storey, E., Chong, T. T. J., Ryan, J., Orchard, S. G., Brodtmann, A., Srikanth, V. K., Shah, R. C., & Callisaya, M. L. (2022). Association of Dual Decline in Cognition and Gait Speed With Risk of Dementia in Older Adults. JAMA Network Open, 5(5), e2214647-e2214647.
※15. McArdle, R., Galna, B., Donaghy, P., Thomas, A. and Rochester, L. (2019), Do Alzheimer's and Lewy body disease have discrete pathological signatures of gait?. Alzheimer's & Dementia, 15: 1367-1377.
※16. 長坂邦宏. (2022). 高専生による事業モデル、評価額は「10億円」:センサーとスマホで軽度認知障害のリスクを予測. 
※17. 柴田大作, 若宮翔子, 木下彩栄, 荒牧英治. (2017). 音声発話による認知症スクリーニング技術の開発 感情表現辞書を用いた発話内容の質的分析. 医療情報学, 37(6), 303-311.
※18. 荒牧英治, 四方朱子, 宮部真衣, 野田泰葉, 木下彩栄. (2015). 3 分ほどの音声発話で認知症者は見つかるか? 自動音声データの言語処理による認知症スクリーニングの試み. 研究報告高齢社会デザイン (ASD), 2015(2), 1-9.
※19. 加藤昇平, 鈴木祐太, 小林朗子, 小島敏昭, 伊藤英則, 本間昭. (2011). 高齢者音声韻律特徴を用いた HDS-R スコアとの相関分析 音声を用いた認知症の早期スクリーニングをめざして. 人工知能学会論文誌, 26(2), 347-352.
※20. Horigome, T., Hino, K., Toyoshiba, H., Shindo, N., Funaki, K., Eguchi, Y., Kitazawa, M., Fujita, T., Mimura, M., & Kishimoto, T. (2022). Identifying neurocognitive disorder using vector representation of free conversation. Scientific Reports, 12(1), 1-8.
※21. NTTコミュニケーションズ 「脳の健康チェックフリーダイヤル」の無償トライアルを開始. 

著者プロフィール

福田 亮子Ryoko Fukuda

プロフィール
ベネッセスタイルケアの社内シンクタンク「ベネッセ シニア・介護研究所」主任研究員

ベネッセ シニア・介護研究所ホームページ

慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科後期博士課程修了、博士(学術)。ミュンヘン工科大学人間工学研究室研究員(Dr.rer.nat.(理学博士)取得)、慶應義塾大学環境情報学部専任講師、同大学院政策・メディア研究科特任准教授、(福)こうほうえん研究員等を経て2015年より現職。人間工学をベースに、ジェロンテクノロジーの研究や、介護現場に蓄積された様々なノウハウやデータの体系化と横展開、新しく開発した介護サービスに関わるツールや方法論の効果検証などに従事。「夜間ぐっすり排泄ケア®」や「認知症ケアメソッド®『あなたと生きる世界をつくることば』」を開発し、社内外への普及にも取り組んでいる。

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